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岡山地方裁判所 昭和45年(ワ)527号 判決 1973年5月21日

主文

1  原告らの競落許可決定無効確認請求は、訴えを却下する。

2  原告らの登記抹消手続請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  訴外株式会社兵庫相互銀行から原告らに対する岡山地方法務局所属公証人村木友市作成昭和四二年第一七一二号金銭消費貸借契約公正証書に基づいて、別紙物件目録記載の建物について、昭和四五年三月三一日岡山地方裁判所がなした昭和四三年(ヌ)第一一号不動産強制競売事件の被告に対する競落許可決定が無効であることを確認する。

2  被告は原告らに対し、それぞれ、別紙物件目録記載の建物について岡山地方法務局御津出張所昭和四五年五月二八日受付第一三四〇号をもつてなされた同年一月三一日競落による共有者全員持分移転登記のうち、当該原告の右目録末尾記載の各持分の移転登記の抹消登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告ら

1  別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という。)は、訴外亡吉村矯一が所有していたが、昭和四二年五月三〇日同人の死亡により、妻の原告吉重、子のその他の原告らおよび訴外吉村正が共同して右矯一を相続し、原告らは本件建物について右目録末尾記載の各持分を承継取得した。

2  訴外株式会社兵庫相互銀行と亡吉村矯一との間には債務名義として、岡山地方法務局所属公証人村木友市作成昭和四二年第一七一二号金銭消費貸借契約公正証書が存在するが、同公正証書には、同銀行が昭和四二年四月二二日訴外有限会社教育出版螢雪社(代表取締役吉村正)に金二五〇万円を、弁済期同年六月三〇日、利息日歩二銭七厘毎月末日に翌月分前払等と約して貸渡したこと、亡吉村矯一が右債務を連帯保証し、義務不履行のときは直ちに強制執行を受けても異議がないこと等の記載がある。

3  前記銀行は右公正証書の執行力ある正本に基づいて、原告らおよび訴外吉村正を亡吉村矯一の相続人たる債務者として、岡山地方裁判所に対し、本件建物等について不動産強制競売の申立をし(同裁判所昭和四三年(ヌ)第一一号不動産強制競売事件)、競売手続が進められ、同裁判所は昭和四五年三月三一日被告を競落人とする競落許可決定をし、同決定は確定し、被告は本件建物について岡山地方法務局御津出張所同年五月二八日受付第一三四〇号をもつて右競落を原因とする共有者全員持分全部移転登記を経由した。

4  しかし、亡吉村矯一は、前記連帯保証をしたことはない。前記公正証書は、訴外吉村正による亡吉村矯一の印鑑盗用により、その作成が委嘱されたものであるから債務名義として無効である。

5  ところで、競売手続は、いかに競落許可決定の確定という事実があろうとも、いわゆる判決の確定などとは違つて、事実関係を実質に確定するという効果を伴なうものではなく、単に裁判所による公売手続が行なわれたにすぎない。したがつて、その手続にして無効原因が存するにおいては、いかなる段階においても、それの無効の確認を求めることができる。競売の基本たる公正証書の債務名義が無効であるときは、競落許可決定は無効であり、競売手続全体が無効となることは当然である。競落許可決定の無効確認を求めることは、もともと無効な決定であるから、いつにてもできなければならない。

そして、不動産所有権は権利者の意思表示がなければ絶対に移動することはないというのが不動の原則である。競売によつて所有権を失なうことはあるが、それがためには自己の意思による債務負担行為がなければならない。権利者の不知な債務、債権者の意思に基づかない債務、この債務を内容とする債務名義、本来無効なる債務名義によつて不動産所有権が失なわしめられることは絶対にないはずである。したがつて、たとえ権利者の意思に基づかないで不動産所有権の登記名義が何人の名義に移されていようとも、真の権利者はいつでもその登記の抹消を求めて自己の名義を保持することができることは明らかなことである(競落許可決定に基づくと否とに関係がない。)。

なお、債務名義の無効を前提として競落許可決定の無効が確認され、無効の競落許可決定に基づいて外形上所有権を取得したものは、該不動産の所有権を取得し得なくなつた当然な結果として競落代金の配当を受けた者に対して求償を求め得るから、何らの不利を蒙ることはない。

6  よつて、原告らは被告に対し、原告ら持分関係部分について前記競落許可決定の無効確認と前記共有者全員持分全部移転登記のうち当該原告の持分の移転登記の抹消登記手続を求める。

二  被告

1  原告ら主張1ないし3の事実は認めるが、同4の事実は不知。

2  債務名義の執行力を失なわしめる方法は、請求異議の訴だけであり、右訴は強制執行終了後に提起することはできない。本件において、原告ら主張の公正証書による同主張の強制競売手続は全部終了しているから、原告らは、もはや右訴を追行することはできない。本件公正証書の執行力を失なわしめることなく、強制執行手続の一部である競落許可決定の無効確認を求めたり、競落による所有権の移転を請求することはできない。

第三  証拠(省略)

別紙

物件目録

岡山県御津郡御津町大字宇垣七九五番地

家屋番号二〇番

木造草葺平家建居宅

床面積 三九坪九合(一三一・九〇平方メートル)

附属建物

1木造瓦葺二階居宅

床面積 一階 一〇坪四合(三四・三八平方メートル)

二階  五坪四合(一七・八五平方メートル)

2木造瓦葺平家建物置

床面積     七坪八合(二五・七八平方メートル)

3土蔵造倉庫

床面積     六坪七合(二二・一四平方メートル)

4木造瓦葺平家建雑種

五坪四合(一七・八五平方メートル)

5木造瓦葺平家建雑種

床面積     四坪三合(一四・二一平方メートル)

6木造瓦茸平家建雑種

床面積     二坪七合(八・九二平方メートル)

以上建物についての共有持分

原告吉村吉重  一五分の五

その他の原告ら 各一五分の二

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